ハイパーインフレとFIRE

私の母は昭和10年(1936年)生まれで、
まだ長生きをしている。
最近は少し認知症が進み、あまり話すこともないが、四、五年前まではよく話をした。

戦前の話になるが、母は子供の頃、歳の離れた姉と2人で中国東北部にあった日本の傀儡国家・満州国で生活をしていた。

満州国時代の体験と資産の無常

日本の敗戦後に満州国は消滅し、母と姉は2人で引き上げ船に乗って日本に帰ってきた。

母の姉は働いて貯めたお金を全て、当時は安全確実な高利回り商品と謳われていた愛国国債に投じていた。

当時の利回りで7~8%だったらしく、
大日本帝国の保証付の債権だから
「将来、家を建てるつもりで」
コツコツと投資をしていたらしい。

ところが引き揚げ船で日本に帰ってきて、
しばらく経ってから国債の償還があった。

当時20代後半の姉は、関東軍という日本の陸軍の病院で働く看護婦だったので、
詳しい金額は覚えていないが、
持っていた債権の金額は現代の感覚では300〜400万円位だと思う。

ところが、その債券と交換で渡された現金で買えた物は「うどん2杯だけ」だったというのだ。

高校生の頃、私はこの話を母から何回も聞かされ、「インフレは怖いものだよ」と繰り返し言われたものだ。

インフレの教訓と現代への影響

ネットで調べると「戦時国債は紙屑同然」、「ハイパーインフレで貨幣価値は300分の1に」などの情報がたくさん出てくる。

インフレとはそういうものなのだろう。
コロナ前には、ネット上でFIREとかセミリタイアの話がたくさん出ていたが、
私はどうしても違和感を感じていた。

いくら株式投資や貯蓄で金融資産が増えても、インフレで貨幣価値が減れば元も子もない。

「株式はインフレに強い」という人もいるが、ではコロナ後の暴落や2022年の暴落はどう説明するのだろうか。

資産防衛:株式投資の安全網

私も株式投資をしているが、これはあくまでもセーフティーネットとして考えている。

生涯現役と元気の良いことを言っているが、80歳とか90歳になったときに「現役」と言えるかどうかは心もとない。

その時に「そこそこの金融資産」がなければ施設に入ることもできないだろう。

そういった意味での資産形成はしっかりと行っているつもりだ。

だが、それはあくまでも最後の手段であり、
生活費として考えるものではない。

確かに長期で見ればインフレ率よりも株式の方がリターンが大きいし、ナスダックの情報革命関連銘柄やナスダック指数そのものに投資をしていれば、十分な利益が得られると思う。

だが、それは超長期の結果の話であって、その運用益や取り崩しで生活費を賄うという「現実の話」とは全く違う。

コロナ時代の資産形成と市場の変動

資産形成というと、
「どの株が上がるか」
「どの株が高配当か」
「どのETFが有利か」
などの情報ばかりが出ているが、
大事な事はインフレヘッジだ。

6〜7%のインフレが続けば、株式投資やその他の資産形成のリターンが10%あったとしても、実質的な資産は3〜4%しか増えていない。

さらに周期的に起こる暴落の時にも、
虎の子の資産を守り抜くために、
絶対に売却せずに持ち続ける「胆力」も求められる。

だから我々は資産形成というよりは、
資産防衛という考え方をしなければならないのだと思う。