プノンペンのカジノで偽札使用
少し前のことになるが、
とんでもない事件に巻き込まれた。
事件というほどのことではないのだが、
カンボジアのカジノで偽札を使ってしまい
係員に取り囲まれ、
地下の取調室に連行されたのだ。
もちろん私が意図的に使ったわけではなく、
どこかの両替所で百ドル札を2枚掴まされてしまったのだが、なかなか体験できない経験だったので、そのあたりを短編小説風にまとめたので、少し長文だがお読みいただきたい。
地下取調室での緊迫した瞬間
土曜日の午前8時過ぎ、世の中には週末の朝のユックリとした時間が流れているこの時に、
東南アジアでは有数の巨大カジノの地下にある薄暗い取調室で偽ドル使用の疑いで取り調べを受けるとは誰が想像できただろうか。
机も衝立もなくだだっ広い部屋に1つだけ置かれた硬い取り調べ椅子に座らされた私は、
睡眠不足と二日酔い、何よりも昨夜から12時間以上もルーレットの盤面を見つめていたための眼精疲労で、必死に睡魔と戦っていた。
もしここで少しでも居眠りでもしようものなら、足を蹴られるか水をかけられても文句が言えない。
様々な通貨を持つことの疑念
取り調べ机の上には押収されたクラッチバックが開かれ、
中身ひとつひとつの撮影が続いている。
日本円の他に人民元や香港ドル、タイバーツ札が入っていたことが、
さらに疑惑を広げたのかもしれない。
撮影のシャッター音と、時々鳴る警備員のトランシーバーのシャーという通信音以外何も聞こえない沈黙の中で、
目で必死に無実を訴え続けている私に、
小柄の警備員が背後の壁を指差して立つようにアゴをしゃくった。
犯罪映画によく出てくる、
身長の目盛りだけがペイントされた壁だ。
不安と緊張の中での小さな救い
壁に立たされた私の顔は相当引き攣っていたに違いない。
タイ人にしては珍しい、切れ長の目の女性警備員が、哀れみとも親しみともつかない顔で私を見つめながら、
小さく「スマイル」と言ってくれたのが唯一の救いだった。
こんな状況に追い詰められていながら、
条件反射的に「可愛いな」と感じてしまう自分が情けないやら頼もしいやら、
複雑な気持ちだった。
その女性警備員は顔立ちからして
日本人とのハーフかもしれない。
母親を騙して日本に帰ったまま戻ってこない父親に、私が似ているのかもしれない。
カメラを見つめる私の視界には、
正面と右側の壁に貼ってある夥しい数の犯罪者や出入り禁止の要注意人物の写真が目に入った。
まさか自分がこんなことになろうとは、
これまで夢にも思っていなかった。
「強制送還だろうか?」とか、
「場合によっては2泊か3泊位は留め置かれるかもしれない」などと悲観的な考えが頭を駆け巡った。
息詰まる瞬間とは、まさにこのことだ。
再び椅子に座らされた私の前に、大柄の警備員が押収したドル札を持って立っていた。
私の目の前に2枚の偽百ドル札を突きつけながら、早口の英語でまくし立てる。
「ここにハッキリとCOPYと書いてあるじゃないか!!、なんでこんなものを掴まされたんだ!」
「アホなんじゃないのか、お前は!」
どうもバンコクの闇両替所でつかまされたらしい。
(;゚ロ゚)