母から受け継いだインフレへの警戒心
私は、子供の頃から、祖母や母が口癖のように「インフレ怖い」「物価10年で2倍」ということを繰り返しきかされて育ってきた。
日本で激しいインフレが起きたオイルショックの頃で、私は小学校から中学校に入りかけだった。
その頃、母が手書きの小さな張り紙に「諸物価値上がりにつき諸事節約」と書いて、家のあちこちに貼ってあったのをよく覚えている。
毎年物価が上がるのが当たり前で、狂乱物価と呼ばれた1974~5年頃には毎年30%以上のインフレが続いたそうだ。
しかし、その後平成の30年間はインフレどころか、デフレで年々物価が下がるという異常な事態が続いた。

だから、若い世代の中には「インフレって何?」「金利は1%未満が当たり前」と考えている人が多い。
世界的インフレと経済の基本原則
しかし、世界的なインフレが始まってしまった以上、それを前提にした生活設計を立てなければならない。
経済の仕組みは非常に複雑だが、簡単に言えば「経済はお金がぐるぐる回るもの」「物の値段は需要と供給で決まる」という鉄則でいろいろなことが説明できる。
例えば、異常気象や戦争でインフラや生産手段が破壊された場合、供給が減るので、需要が変わらなければ物の値段は上がる。
今のような不安定な世の中で、「来年以降、戦争もなく、自然環境も落ち着いた平和な時代が続く」と考える人はいないだろう。
そうであれば「必ずインフレが進む」と考えておいた方が無難だ。
経済予測であれば、当たっても外れても良いのだが、FIREを目指す上では、長期の人生設計が必要だ。
その時に、FIRE界隈で定説となっている4%理論を鵜呑みにして良いのだろうか。
4%理論の実践者が少ない現実
よくよくネットを調べてみると、この4%理論で、実際にFIRE生活を送っている人のブログや情報発信が驚くほど少ない。
ほとんどはフィナンシャルプランナーとか保険代理店とか、あるいは金融機関の宣伝情報ばかりで、実際に長期にわたって実践している人の現場報告は驚くほど少ないのだ。
この理論の脆弱性は少しシミュレーションをしてみればすぐ分かる。
もともとの理論はネットに書かれている通り「年間生活費の25倍の金融資産を7%で運用し4%の分を生活資金に当てる」というものだ。
インフレが暴く4%理論の限界
私が提唱している絶対的最低生活固定費である日本の大卒初任給の2分の1の金額、2024年現在では11万5000円を基準に考えてみよう。
この金額は、日本の厚生労働省の国民生活基礎調査に基づけば、貧困ラインとされている。
貧困ラインというのは、日本全体の世帯所得収入の中央値(4,400,000円)の2分の1以下の収入を言うらしい。
3人家族の場合は、2,200,000円、1人の場合は1,400,000円が貧困ラインになるらしい。
貧困ラインといっても、日本のような先進国の貧困ラインだから、「最低限の健康で健全な生活ができる」生活水準と考えて良いだろう。
これを基準にすると金融資産は35,000,000円となる。
切りの良い30,000,000円を基準にして、7%のインフレが10年間続いたと仮定する。
10年間、金融資産を7%運用で回したとして、その運用収益を生活消費に当ててしまったら、元本がどんどん目減りしてしまう。
かといって、完全FIREの場合は、給与収入がないわけだから、金融資産を取り崩さなければならない。
毎年の消費資金も、インフレ率に比例して上がっていくから、下記の図のように、毎年の取り崩し額が増えていく。
この生活を10年続けると、元本の実質価値は10年前の2分の1に減少してしまうのだ。
例えば45歳で完全FIREを達成したとしよう。
その後1人で貧困層に分類されるレベルの年間1,400,000円でカツカツの生活を続けたとしても、10年後には元本が2分の1に減少し、20年後にはほとんど「お先真っ暗」の状態になってしまうのだ。
もちろん10年20年と7%インフレが続くかどうかわからないし、ときには7%以上の運用収益を上げることもあるだろう。
しかし、世の中の不安定度増加につれ、周期的な株価の暴落や、異常気象による自然災害の規模など、想定できないことがたくさんある。
そういった時に人的資本=給与収入を捨てるという従来のFIRE(会社辞めてやる戦略)は絶対に不可能だと認識すべきだろう。

