FIRE理論のブームと背景
FIREという言葉が流行り始めたのは2015〜6年頃と言われている。
それが日本を始め世界各地に広がり、2020年のコロナ禍を契機に、一気にブームとなったようだ。
これにはいろいろな背景があり、コロナ禍で行動制限がかかり「イヤな上司や同僚と会わなくて済む」という考えられなかったような快感を味わった人たちが、「やはりFIREしかない」「リモートワークで何でもできる」ということに気づいたことが大きな要因となっていると思う。
もう一つの要因としては、「2015年頃から」というのがキーワードとなる。
従来のFIRE理論の構造
FIREに関心のある人なら、誰でも知っていると思うが、FIRE理論の基本は年間生活費の25倍の資産を蓄え、そこから生じる運用益のうち4%を生活消費に回すというものだ。
運用益目標は7%とされており、これは平均的なインフレ率3%+消費分4%の合計となる。
これは2008年のリーマンショック後の世界で広く受け入れられた。
実際にリーマンショック後の財政出動により、ナスダック市場は右肩上がりの上昇を続け、どんな運用をしても簡単に7%以上の運用益を手に入れることができた。

ナスダック市場の値上がりに連動するQQQはもちろんのこと、世界株全体に投資するVTや、その日本版であるオール・カントリーでも楽々と7%以上の収益を上げることができた。
さらに「歴史的な低金利」も背景となり、7%で運用して4%消費に回すという理論が成り立ったのだ。
FIRE理論の現実的な限界
しかし、その理論が今でも通用するだろうか?
例えばコロナなど夢にも想像できなかった2019年の半ば頃に、年間支出の25倍の資産を蓄え終わってFIREを始めたとしよう。
その後の展開を想像してみると良い。
あるいは「コロナは特殊なこと」と信念を持ってFIRE理論を実践し続けた人のうち、2021年後半に「目標達成・FIRE開始」と決断した人たちは2022年の1年間続いた、あの大暴落の中でどう対応しただろうか?
こういったインフレや大暴落が常態化した今、私は「お金を貯めてFIREはできない」という持論に自信を深めている。
長期的視点と新たな経済的自立戦略
もちろん、10年、20年という超長期で見ればこの理論は正しいと思う。
世界全体の潜在成長率は3から4%であり、これがインフレ率に相当する。
そして、情報革命・AI革命による生産性の向上が成長率をカサ上げする。
だからQQQやVTなどで情報革命や世界全体の成長に投資すれば、少なくともインフレ率以上の運用益を上げる事は可能だ。
情報革命による生産性の向上は少なくとも4%以上の経済効果があるので、この部分を消費に回すという考え方は間違ってはいない。
しかし、それはコロナ暴落や2022年の暴落などを織り込んだ上の話で、実際にその状況に直面したときに、資産形成やFIREを続けられるかどうかは別問題だ。
チャートを見れば「ここは我慢のしどころ」、「時にはこういう下落もある」と言えるが、実際には「先が見えず、明日はどうなるかわからない」という恐怖に慄いているのだ。
どんな資産形成の本にも「時間を武器にして」「時間を味方につけて」と書かれている。
それは事実で、資産形成には長い時間がかかる。
それと同じように「稼ぐ力」を身につけるのにも長い時間がかかる。
インフレや経済の変動(ボラティリティ)がコロナ前とは別次元に上昇した今、従来のFIRE理論は通用しなくなった。
最低生活固定費を把握して、
ミニマリズム+
生涯現役でユルく長く稼ぐ+
セーフティーネットとしての金融資産
の組み合わせこそが唯一の答えなのだ。

