バンコクでの生活コストと貧富の格差

円安の影響で、かつてほど東南アジアの割安感はなくなったが、それでもまだ日本に比べれば物価は安い。

円安とタイの物価

タイの人口は7千万人で、日本の6割位の大きさだ。

この国全体で見た場合の物価水準は日本の4割位、バンコクの中心部で考えると半分位の感覚だ。

コロナ前の為替水準で見ると、バンコクなどの都市部で3分の1、国全体で見ると3割弱という印象だったので、それに比べれば割安感は小さくなった。

しかしバンコクのど真ん中でも、生活コストが日本の半分なのだから、これはどう考えても割安だ。

貧富の格差とジニ係数

しかし、そのタイでも年々貧富の格差が拡大しているらしい。

社会全体の所得分配の不平等さを表すジニ係数で見ると、タイが43%で日本は33%となっている。

数字が大きいほど格差が大きく、40%が社会騒乱の警戒ラインと言われており、ここ数年、バンコクで催涙ガスやゴム弾が飛び交う大規模なデモが頻発している理由もよくわかる。

2010年頃までは40%未満で安定していたようだが、リーマンショック後から始まった不動産バブルなどで急激に貧富の差が拡大したようだ。

もともとタイの富裕層は桁違いの金持ちが多かったが、かつては王族に連なるごく一部の超富裕層と、その他という棲み分けだったのが、経済の発展に伴い新・富裕層が生まれ、所得格差が拡大しているらしい。

こういった富裕層の次に位置する中間層の所得が向上してきたので、バンコクなどの都市部では外国人が快適に暮らせるような社会インフラが整っている。

外国人労働者の現状

外国人向けスーパーやレストランなどは、外国人だけを相手にしていたのでは売り上げ規模が小さいので、現地の人たちの売り上げが重要になる。

そういった面では、私たちがバンコクやホーチミンで快適なセミリタイアライフを送れるのは、こういった中間層の所得向上によるところが大きい。

ジニ係数以上の貧富の格差

しかし、それは同時に現地での貧富の格差を拡大していることにもなるので、手放しに喜ぶことはできない。

ジニ係数以上に貧富の格差を大きく見せているのが、外国人労働者の存在だ。

タイは周辺の国々に比べればGDPが格段に大きいため、西はミャンマーから、北はラオスから、東はカンボジアから、南はマレーシアから膨大な数の外国人労働者が流入している。

南に位置するマレーシアは一人当たりGDPではタイよりも上位なのだが、南北に細長い国で、タイと隣接する北部地域の人々の所得はかなり低い。

マレーシア北部にはイスラム教徒が多く、バンコク市内のコンビニにはヒジャブを被った女性が大勢働いている。

詳しいデータはわからないが、私の見た限りでは、ミャンマー人は建設現場、ラオスからの労働者は農業や軽工業、カンボジアからの労働者は水産加工業などが多いように思う。

人数的には、国の人口規模に比例してミャンマー人が圧倒的に多いようだ。

ミャンマー人労働者の未来

何年か前にタクシーに乗った時、あまり小綺麗ではない身なりの運転手が、隣を走る外国人労働者を乗せたトラックを指差して、「タイ人は重労働はしないんだ」と教えてくれたのをよく覚えている。

ジニ係数には外国人労働者は含まれていないから、街全体の雰囲気から見ると、ジニ係数以上に貧富の格差が大きいように見えるのだ。

バンコク市内を歩いていれば、どんな時間帯でも必ず外国人労働者を乗せたトラックを見かける。

夕方になると、トラックの荷台には文字通り立錐の余地もないほど大勢の仕事を終えた労働者たちが乗っている。

バンコク市内の交通渋滞は有名で、なおかつ信号の待ち時間は2分とか3分が当たり前なので、道路に止まっているトラックを見かけることが多い。

大都会バンコクに来た出稼ぎ美少女

ある時、トラックに乗っていたミャンマー人のあどけない女の子が、キョロキョロと周りを見渡しているのを見かけたことがある。

信号待ちでずっと止まっていたのでよく見えたのだが、びっくりするほどの美形だった。

私の勝手な想像だが、ミャンマーの田舎からバンコクに来てまだ日が浅く、高層ビルが乱立するスクンビット通りが珍しかったのだろう。

建設現場での仕事は重労働だが、頑張ってお金を稼いで、せっせと実家に仕送りをして欲しいと願ったのだが、それと同時に少し悲しい考えが頭をよぎった。

これらの国々のタイと国境を接する地域では、タイのテレビを見ることができる。

周辺の国々と比べれば、タイのテレビドラマや番組のレベルは圧倒的に高く、若い女の子が憧れを持つのも当たり前だ。

そして、このミャンマーのあどけない女の子が、「いつか、私もこんな街で華やかの生活が出来るかもしれない」と考えたとしたら、それは悲しいストーリーだ。

すべての新興国が先進国に発展できるわけではなく、残酷な世界では搾取する側と搾取される側が必ず存在する。

残念ながら、ミャンマーやラオスが搾取する側に回る可能性は極めて低いからだ。