なぜ「完全引退」が現代人に合わないのか
65歳で定年を迎え、退職金と年金で残りの人生を過ごす。
この「完全引退モデル」は、昭和の高度経済成長期に確立されたライフスタイルだ。
しかし、現代の40代以上のサラリーマンが直面している現実は、この前提が根本的に崩れていることを示している。
まず経済的な現実を見てみよう
厚生年金の所得代替率は約50%とされているが、これは額面ベースの話だ。
実際の手取りで考えれば、給付は50%に満たず、現役時代の生活水準を維持することは困難だ。
退職金制度も縮小傾向にあり、企業年金を受給できる人も限られている。
さらに深刻なのはインフレの加速だ。
2020年以降、世界的にインフレ率が上昇し、1980年代から続いた低インフレ時代は終焉を迎えた。
預貯金や配当に依存した資産形成では、購買力の維持すら困難になっている。
まして年金だけに頼った老後設計は、もはや非現実的と言わざるを得ない。
終身雇用制度の崩壊と心理的影響
終身雇用制度の崩壊も見逃せない要因だ。
一つの会社で定年まで勤め上げることが困難になった。
転職が当たり前になった現代において、65歳で突然すべての仕事から手を引くという発想自体が時代錯誤だ。
心理的な側面でも問題がある。
長年働き続けてきた人が突然完全に仕事を失うと、アイデンティティの混乱や目的意識の喪失に陥りやすい。
これは「退職直後症候群」と呼ばれる現象で、うつ病や認知症のリスクを高めることが医学的にも確認されている。
人生100年時代の新しいライフスタイル
医療技術の進歩により、現在40代の人の平均寿命は90歳を超える可能性が高い。
つまり65歳で退職したとしても、その後25年以上の時間が残されている。
この四半世紀を単なる「余生」として位置づけることは、あまりにも消極的だ。

人生100年時代においては、学生・仕事・引退という3ステージモデルから、マルチステージモデルへの転換が必要だ。
40代で新しいスキルを学び、50代で転職やキャリアチェンジを行い、60代以降も社会との関わりを持ち続ける。
こうした柔軟なライフデザインが求められている。
重要なのは、各ステージでの「移行期間」を設けることだ。
いきなり完全引退するのではなく、段階的に労働時間を減らし、新しい活動にシフトしていく。
この移行期間こそが「セミリタイア」の真の価値なのだ。
健康寿命と経済的持続性の両立
また、人生100年時代では「健康寿命」の能動的な延伸が重要になる。
単に長生きするだけでなく、最後まで自立した生活を送れることが目標だ。
そのためには適度な好奇心と挑戦を継続し、心身ともに活性化を保つ必要がある。
完全引退はこの目標と相反する。
経済的な視点でも人生100年時代は従来の計算を無効にする。
25年分の生活費を年金だけで賄うことは現実的ではない。
何らかの形で収入を得続ける必要があり、そのためには継続的なスキルアップと社会との関わりが不可欠だ。

